
心電図の学習について調べると、おすすめの本、おすすめのアプリ、おすすめの動画と、手段の話がたくさん出てきます。ただ、心電図でつまずく原因の多くは、手段そのものよりも、学ぶ順番のほうにあります。
この記事では、心電図の学習をどの順番で進めるとよいか、そのうえでどの手段を選ぶとよいかを順にまとめます。先に結論を書き、理由はそのあとで説明します。
結論:おすすめの学習順番は、この5ステップ
- 自分が現場で見るのが、モニター心電図なのか12誘導心電図なのかを決める
- 心臓の電気がどこを通っていくのかを、先に入れる
- 1つ1つの波が何を表しているのかを知る
- 毎回、同じ手順で読むと決める
- 正常の形を先に覚え、異常はそのあとに足していく
この順番を守ると、覚える量そのものが減ります。逆にこの順番を崩すと、覚えることが際限なく増えていきます。
なぜ「波形を覚える」から始めると続かないのか
心電図の学習の入り口としてまず思いつくのが、波形の名前と形をセットで覚えることです。この形はこの病名、と絵と名前をひもづけていく方法です。
この方法には、2つの弱点があります。
1つめは、覚える数にきりがないことです。 心電図に出てくる所見はたくさんあり、しかも同じ所見でも見え方は一定ではありません。モニター心電図なら、電極を貼る位置が変わるだけで波形が大きく変わります。形だけを覚えていくと、いつまでたっても「まだ覚えていない波形」が残ります。
2つめは、覚えていない波形に出会ったときに手が止まることです。 現場で困るのは、知っている波形が出たときではありません。見たことのない波形が出たときです。形の暗記だけで進めていると、そこで考える手がかりが残りません。
一方で、電気の流れと波の意味から入ると、初めて見る波形でも「この波が遅れている」「この波がない」というところまでは自分で言えるようになります。全部は分からなくても、そこまで言えれば次の行動が決められます。
「ほぼ読めない」まま現場に立っている人は少なくない
心電図CAMPにお申し込みいただいた方に、お答えいただいたアンケートがあります。433件の回答のうち、看護師の方の回答は284件でした。そのなかで「心電図はほぼ読めない」と答えた方が198件、割合にすると約7割です。
これは心電図を学ぼうと決めた方の数字なので、医療従事者全体の割合ではありません。それでも、「自分だけが読めていないのでは」と感じている方には、知っておいてほしい数字です。読めないところから始めるのが普通で、そこから順番に積み上げれば届きます。
ステップ1:モニター心電図と12誘導心電図、どちらから学ぶかを決める
心電図には種類があり、分かることが違います。ここを分けずに学び始めると、必要のないところで時間を使ってしまいます。
モニター心電図
胸に3つの電極を貼るだけで記録でき、患者さんから離れた場所のモニター画面に波形を映せます。長時間つづけて観察できるのが強みで、脈のリズムが乱れるタイプの異常、つまり不整脈をつかまえるのに向いています。
いっぽうで、画面に出るのは基本的に1つの誘導(1方向から見た波形)だけです。そのぶん12誘導心電図より情報が少なく、心臓のどの部分が悪いのかを正確に決めることはできません。電極を貼る位置が変われば波形も変わります。
モニター心電図でおかしいと思ったときは、患者さんのところへ行き、12誘導心電図を記録する。これが基本の流れです。
12誘導心電図
手足と胸の合わせて10か所に電極をつけ、12の方向から心臓の電気を記録します。方向が多いぶん情報が多く、心筋梗塞が心臓のどのあたりで起きているかといった、場所の診断ができます。ただし、ベッドで安静にした状態での短い記録なので、いつ起きるか分からない発作をとらえるのには向きません。
どちらから始めるか
- 病棟でモニター画面を見る立場なら、モニター心電図から。まずリズムを読めるようにして、そこから12誘導へ広げます
- 外来や検査室で12誘導を記録する立場なら、12誘導から。ただしリズムの読み方は共通なので、結局そこは通ります
どちらを選んでも、次のステップ2からステップ4までは同じです。土台は1つです。
モニター心電図から始める方は、モニター心電図の見方に、電極の位置や波形が乱れたときの見分け方までまとめました。
ステップ2:心臓の電気の流れを、先に入れる
波形の勉強に入る前に、心臓の中を電気がどう通っていくかを頭に入れます。ここが入っていないと、あとの説明がすべて丸暗記になります。
正常なとき、電気は洞結節という場所から出ます。右心房のいちばん右上、上大静脈と右心房がつながっているあたりです。そこから出た電気は心房全体に広がり、心房と心室のあいだにある房室結節に集まって、心室へ伝わります。
覚えることはこれだけです。ただし、この一本の道のどこで何が起きるかで、波形の変わり方が決まります。
- 出発点そのものが変わると、波形の最初の部分が変わる
- 途中の通り道で時間がかかると、波と波の間隔が延びる
- 心室の中の道が使えないと、心室の波が幅広くなる
この対応がつかめると、あとは「どこの話をしているのか」で整理できるようになります。
ステップ3:1つ1つの波が、何を表しているかを知る
心電図の波には、順番に名前がついています。最初に出る小さな山がP波、次に出るとがった波がQRS波、そのあとのゆるやかな山がT波です。
- P波:心房が興奮するときに出ます
- QRS波:心室が興奮するときに出ます
- T波:心室が興奮から回復していくときに出ます。この回復のことを再分極といいます
ここでよくある誤解を1つだけ書いておきます。T波のあたりは「心臓がゆるんでいる時間」と説明されることがありますが、正確ではありません。T波が表しているのは電気の回復であって、筋肉がゆるむ動きそのものではありません。心電図は電気の記録であって、動きの記録ではない、という区別は最初に置いておくと後で混乱しません。
記録紙のマス目も、最初に押さえる
心電図の記録紙は、横が時間、縦が電位です。紙が送られる速さは1秒あたり25mmと決まっているので、横の1mm(小さい1マス)が0.04秒にあたります。
この1つを覚えておくだけで、「この間隔は何秒か」を自分の目で測れるようになります。機械が出す数字を見るだけの状態から抜け出す、最初の一歩です。
ステップ4:毎回、同じ手順で読むと決める
教えていて感じるのは、知識の量よりも、読む手順を持っているかどうかで差がつくということです。
参考になるのが、2段構えの考え方です。『レジデントのための これだけ心電図』では、まず「急ぐ心電図かどうか」をひと目で判断し、そのあとで見落としがないか順番に確認していく、という流れが紹介されています。急ぐかどうかを先に置くのは、臨床では時間が限られているからです。
そして大事なのは、この手順に唯一の正解はないということです。同じ本にも、「絶対的にこれがよい」という系統的な読み方はない、と書かれています。大切なのは、自分の手順を1つ決めて、毎回そのとおりに見ることです。
手順を決めると、次の2つが起こります。
- 見落としが減る。順番が決まっていれば、飛ばしたところに自分で気づけます
- 分からないときに、どこで詰まったかが言える。「P波までは分かるけれど、そのあとが分からない」と言えれば、調べる場所がしぼれます
具体的な手順は心電図の読み方は順番で決まるに、モニター心電図の4ステップと12誘導心電図の7ステップとして書き出しました。
前回の記録と、必ず見比べる
手順のなかに、ぜひ入れてほしい項目があります。前回の心電図と見比べることです。
同じ波形でも、前からずっとそうなのか、今日はじめて出たのかで、意味がまったく変わります。もともとその波形だった方に慌てても仕方がありませんし、逆に「いつもと違う」と言えるなら、それ自体が伝えるべき情報になります。
教科書でも、判読のときに以前の心電図と比べることは繰り返し出てきます。学習の段階から、比べるくせをつけておくと現場で効きます。
ステップ5:正常を先に覚え、異常はあとから足す
異常から入ると、何が異常なのか判断する物差しがないまま進むことになります。先に正常の形と数値を入れておくと、異常はその「ずれ」として理解できます。
たとえばP波なら、正常の目安は次のとおりです。
- Ⅰ誘導とⅡ誘導(12誘導のうちの2つ)で、上向き(陽性)になる
- Ⅱ誘導で、幅は3mm未満、高さは2.5mm未満
この物差しがあると、「高すぎる」「幅が広い」「向きが逆」という形で異常をとらえられます。異常の名前を覚えるより、正常からどうずれているかを言えるほうが、現場では役に立ちます。
なお、PQ間隔(PR間隔)のように、本によって呼び方が違う用語もあります。同じものを指しているので、1冊決めたらその呼び方で通すのがおすすめです。
学習の手段は4つ。組み合わせて使う
順番が決まったら、次は手段です。心電図の学習で使える手段は、大きく4つあります。それぞれ得意なことが違うので、1つに絞るよりも組み合わせるほうが早く進みます。
本
- 得意:全体像をひととおり押さえられる。あとから調べ直せる
- 苦手:電気の動きのような、時間とともに変わる話が読み取りにくい。1人だと止まったときに進めない
動画・講座
- 得意:電気がどう流れるか、波形がどう変わるかといった動きのある話が分かりやすい
- 苦手:見ただけで分かった気になりやすい
問題を解く
- 得意:本当に読めるかどうかが、その場ではっきりする
- 苦手:解説がないと、間違えた理由が残らない
現場の記録
- 得意:実際の波形に慣れる。前回の記録と見比べられる
- 苦手:教科書どおりの形ばかりではない。ノイズも混じる
おすすめの組み合わせは、動画か本で仕組みを入れる → その日のうちに問題を解く → 現場で実際の記録を見る、という流れです。
とくに大事なのは、入れた日に解くことです。読んだだけ、見ただけでは、読めるようにはなりません。自分で波形に線を引いて、間隔を測って、名前をつけるところまでやって初めて、知識が使える形になります。
心電図の本の選び方
本は、目的別に3つのタイプに分かれます。最初の1冊を間違えると、そこで止まってしまうので、自分がどれを求めているかを先に決めてください。より詳しい選び方と具体的な書名は心電図の本のおすすめにまとめています。
タイプ1:はじめての1冊、モニター心電図が中心
モニター心電図を見る立場で、これから始めるなら、図が多く、所見を1つずつ区切って説明しているタイプが向いています。大島一太『これならわかる!心電図の読み方』や、『看護のためのモニター心電図ガイドブック』、『心電図教えてノート』などがこのタイプです。
選ぶときは、心臓の電気の流れの説明が最初に入っているかを見てください。いきなり波形の一覧から始まる本は、2冊目以降に向いています。
タイプ2:見つけたあと、どう動くかまで書いてある本
心電図の学習は「読める」で終わりではありません。読めたあと、どう動くか、誰に何を伝えるかまでが1セットです。『読んで動ける心電図』や『確実に伝わるモニター心電図報告ガイド』は、そこまで踏み込んで書かれています。
現場で不安なのは、読めないことそのものより、読めたあとに動けないことです。1冊目と並行して、こちらも早めに読んでおくと安心感が変わります。
タイプ3:心電図検定を受ける
心電図検定を目指すなら、解説つきの問題集を軸にします。『心電図検定3級合格のツボ』のような級別の対策本や、問題数の多い問題集を1冊決めて、解いて解説を読む、を繰り返す形です。
検定対策は、上のステップ1からステップ5を終えてから始めるほうが結果的に早く進みます。土台がないまま問題集に入ると、答えの丸暗記になります。
何級から受けるか、どれくらい時間がかかるかは心電図検定の勉強法にまとめました。
1日30分・4週間で進める場合の目安
まとまった時間が取れなくても、心電図の学習は進みます。1日30分を基準にすると、次のような配分になります。
- 1週目:電気の流れと、P波・QRS波・T波の意味。記録紙のマス目。リズムが乱れていないかの見方
- 2週目:脈が遅いとき、速いときの波形。どこで電気が止まっているのか、どこから出ているのか
- 3週目:心室の波が幅広くなるもの。心筋梗塞に関わる変化
- 4週目:STやT波の変化、QT間隔。ここまでの復習
続けるコツは3つあります。
- 時間ではなく、やることを決める。「30分やる」より「この所見を1つ」のほうが、始めるハードルが下がります
- 週の終わりに、まとめて解き直す。新しいことを足すより、1週間ぶんを自分で読み直すほうが定着します
- できなかった日を気にしない。1日空いたからやめてしまうのが、いちばんもったいない終わり方です
心電図CAMPも、この考え方で組んでいます。1週間ごとに講義と復習を組み合わせ、4週間で心電図の読み方をひととおり学ぶ形です。くわしくは心電図CAMPとはのページと、心電図CAMPとは?学べることと受講までの流れにまとめています。
学習でつまずきやすいところ
最後に、実際につまずきやすいところをまとめます。あてはまるものがあれば、そこだけ直せば進みます。
- 波形の名前から覚えている:電気の流れに戻ってください。名前は最後で構いません
- いきなり12誘導から入っている:モニターを見る立場なら、まずリズムからで十分です
- 読むだけで、手を動かしていない:間隔を測る、波に印をつける。ここを飛ばすと読めるようにはなりません
- 毎回ちがう順番で見ている:手順を1つ決めてください。中身より、同じであることが大事です
- 前回の記録と比べていない:いつからそうなのかが分からないと、伝えることも決められません
- 「読める」で止まっている:見つけたあとどう動くかまでを、セットで学んでください
よくある質問
心電図は独学でも読めるようになりますか
なります。ただし、順番を自分で決める必要があるぶん、遠回りになりやすいのは確かです。独学で進めるなら、この記事のステップ1からステップ5の順番だけは崩さないようにしてください。
何時間くらいで読めるようになりますか
読めるの中身によります。心電図CAMPは、モニター心電図のリズムから12誘導の主な所見までを、1日30分ほどで4週間かけて学ぶ組み方にしています。1つの目安として参考にしてください。ただし、そこで終わりではなく、実際の記録を見続けるところからが本番です。
心電図アプリだけで学習できますか
問題を解く手段としては便利です。ただし、そのアプリが「解いて答え合わせをする」ためのものなのか、「電気の流れから順番に積み上げる」ためのものなのかは、使う前に確かめてください。前者だけでは、なぜその波形になるのかが残りません。仕組みを入れる部分は、本か動画で補うことになります。
看護師でも12誘導心電図まで学ぶ必要がありますか
立場によります。ただ、モニター心電図でおかしいと思ったときに12誘導を記録する流れは共通なので、記録した心電図に何が写っているかを知っておくと、動きやすくなります。
心電図検定を受けたほうがいいですか
読めるようになるための手段として使うなら、目標がはっきりして続けやすくなります。検定のために学ぶのか、現場のために学ぶのかを決めてから始めてください。
お金をかけずに心電図の学習を始める方法
心電図の学習は、教材を買わないと始められないものではありません。無料でできることを3つ挙げます。
1. 自分の職場で記録された心電図を、1枚ずつ見る
いちばん確実で、いちばんお金がかからない方法です。教科書の波形はきれいに整えられていますが、実際の記録にはノイズも基線の揺れも入ります。その差に慣れておくことが、そのまま現場での力になります。
見るときは、この記事のステップ4で決めた手順どおりに、毎回同じ順番で見てください。そして前回の記録と見比べてください。
なお、患者さんの記録は職場のルールに従って扱ってください。院外に持ち出したり、個人が特定できる形で共有したりしないようにしましょう。
2. 毎日、1問だけ解く
まとまった時間が取れなくても、1日1問なら続きます。けいたのアカウントでは、心電図のクイズと解説を毎日出しています。
- Instagram(@keita_ecg):心電図のまとめ、クイズ、リール
- Threads(@keita_ecg):毎日の心電図クイズと解説
どちらも無料です。発信している媒体はけいたの発信にまとめています。
3. 無料の勉強会に出る、まとめ資料を受け取る
心電図CAMPの公式LINEでは、次の3つを無料でお届けしています。
- 無料の勉強会(インスタライブ)の案内:テーマを決めて、実際の波形を見ながら解説します。参加は無料です
- わかりやすくまとめた心電図の資料:波の意味や読む手順をまとめた資料を受け取れます
- 次回募集の日程のお知らせ:心電図CAMPは期間限定・定員制で募集しています。日程は登録した方へ先にお知らせします
登録は無料で、必要なくなったらいつでもブロックできます。まずは資料を受け取って、自分に合いそうかを確かめてみてください。
まとめ
心電図の学習でおすすめしたいのは、次の順番です。
- 自分が見るのがモニター心電図か12誘導心電図かを決める
- 心臓の電気がどこを通るかを先に入れる
- 1つ1つの波が何を表しているかを知る
- 毎回、同じ手順で読むと決める
- 正常を先に覚え、異常はあとから足す
そのうえで、本か動画で仕組みを入れ、その日のうちに問題を解き、現場の記録で確かめる。これを繰り返せば進みます。
実際にこの順番で学び直した方の話は、受講者インタビューに載せています。同じところでつまずいて、そこから読めるようになった方ばかりです。
心電図は、順番どおりに積み上げれば読めるようになります。この記事が、その最初の一歩の役に立てばうれしいです。
参考文献
- 大島一太『これならわかる!心電図の読み方』モニター心電図と12誘導心電図の違い、モニターは主に1つの誘導であること、電極の位置で波形が変わること(p.9、p.13)
- 『心電図パーフェクトマニュアル』(羊土社)記録紙の速さ25mm/秒と1mm=0.04秒(p.24)、正常なP波の幅と高さ(p.31、p.45)、ST-Tが心室筋の再分極過程を表すこと(p.39)、洞結節から房室結節を経て心室へ興奮が伝わること(p.40、p.53)
- 『レジデントのための これだけ心電図』(日本医事新報社)先に緊急性の高い心電図かどうかを判断し、そのあと漏れがないように系統的に見ること、「絶対的にこれがよい」という読み方は存在しないこと(p.212、p.213)
- 『心電図マイスターを目指す 基礎力grade up講座』判読の際に以前の心電図と比較すること(seq.0068、seq.0078)

